タイ(バンコク)の現在の求人市場状況を人材紹介会社SAGASS Recruitment(Thailand) Co Ltdの社長に伺いました

●リーマンショック後のマーケットはどう変化しましたでしょうか?

2008年のリーマンショック以降、タイにおける日本人求人マーケットは大きな転換期を迎えました。

リーマンショック以前は、企業側の求める人材は、「何らかの社会人経験者」「英語かタイ語のいずれかが日常会話レベル」という、在タイ日系企業の人手不足感を補うのが目的の、求職者にとっては比較的緩い条件の求人が多くみられました(いずれかの条件を満たせば良いといういわゆる「OR求人」)。

したがって、「日本で仕事が決まらないから」という理由で職を求めてタイを訪れる求職者にも、日常会話程度の英語もしくはタイ語が話せれば、ある程度の受け皿がありました。

しかしリーマンショック以降に状況は一変したと言えます。

百年に一度の不況と言われる中、在タイ日系企業は、驚異的な成長力で経済発展を遂げる新興国との存亡をかけた競争の荒波に晒され、一層のグローバルと化と変革を避けられない状況になりました。

日系企業はコスト削減の一環として、駐在員を大幅に帰国させ(とりわけ製造業において)、ローカライゼーション化を加速しました。

当初はそのリプレイス要員として現地採用社員の大幅雇用増が期待されましたが、実際蓋を開けてみれば求人数自体はむしろ増加(弊社統計2009年は前年比18%増、2010年第1四半期は前四半期比13%増)したものの、求人条件が「自動車部品業界での営業経験者」かつ「英語及びタイ語が日常会話レベル」、「タイでの5年以上の管理職経験者」かつ「タイ語がビジネスレベル」というように、非常に細かく、ハードルが高くなりました(いわゆる「AND求人」)。

全体的な傾向として「OR条件」から「AND条件」への移行、そして駐在員の若返りによる条件の低年齢化が進行しました。

現在は落ち着きを取り戻したものの、平均給与も10%程度下落しました。

求人数が増えたのは、「優秀な人材がいればいつでも採用をしたい」という待ちのスタンスの企業が増加したためでもあります。

より採用ハードルを高くした企業と、過去の感覚で就職活動を続ける求職者の間に大きなミスマッチが生じ、「OR人材」にとっては条件にすら引っ掛からず企業への応募のチャンスすら与えられない非常に厳しい状況が継続しているという一方で、「AND人材」は供給が追いつかず、不景気の中でもますます引く手あまたとなっており給与も上昇しています。

この二極化の傾向は今後も進んでいくものと思われます。

しかしこのように状況でも、郊外の日系製造業における、タイ語堪能な日本人女性のニーズは依然として高く、未経験でもタイ語が読み書き可能なレベルであればチャンスがあり、将来の間接部門のエグゼクティブ候補としてのキャリアパスもあります。

また日系企業の求人需要が低くなる中、50歳前後の経験法豊富な日本人シニア人材を獲得したいという、外資系企業からのニーズはむしろ高くなってきています(勿論ハードルは高い)。

●世界経済及びタイ国内の状況を踏まえた上での今後の見通しはいかがでしょうか?

タイ国内においては、タイ国における高等教育の大衆化及び、日系企業を中心とした外資系企業のタイ人人材育成の成果もあり、この5年間で優秀なタイ人グローバル人材が急激に増加しており(彼らは英語や日本語が堪能である)、以前は日本人がこなしていたポジションがタイ人にとって変わってきているという動きも見逃せません。

日本人現地採用スタッフとローカルスタッフとの給与の格差がタイのように激しいのは、世界広しといえど稀であり、経済発展面において、ASEAN諸国の優等生として中進国入りしたタイは、今後両者間の平均給与は十年以上をかけてより近づき差が縮まっていくでしょう(蛇足ですが、これが将来逆転するという判断材料は今のところ全くありません)。

実際にタイ人平均賃金は上昇し続けている一方で、日本人スタッフのそれは緩やかに下落し続けています。

日本人給与の一つの目安である50,000バーツ以上の給与をとっているエグゼクティブ・クラスのタイ人人材は既に多数存在しており、かつ年々急激なスピードで増加しています。

2010年にはASEAN-中国の間でFTAが発効され、人口規模で世界最大の自由貿易圏が誕生、経済規模においてもASEAN-中国-インド+オセアニア地区で世界経済の3分の1を占め、この大幅な転換期を迎える世界経済に対応した舵取りが、今後は日系企業にとって急務となります。

「日系企業」で「日系企業の日本人の担当者」を「日本語でのみで対応する」のが仕事であるという旧型の現地採用モデルは、もはや完全に崩れたと言えましょう。

国際求人マーケットにおける「日本人であること自体」がアピールとなる「日本人ブランド力」は低下していき、以前は重宝された「日本人ならではのきめ細かさ」というのは今や当然の前提条件となり、今後はプラスアルファの専門分野での経験と語学力及び基本的なITキルがより求められるようになります。

逆説的となりますが、「日本人」という枠を超えて活躍できるグローバル人材、かつ日本人としてのきめ細かさを兼ね備えている人材にとっては、ますます人生におけるチャンス・可能性が拡がっていくでしょう。

海外就職を目指す学生へは、以上の観点から、弊社では海外就職を希望している学生あるいは第2新卒の方に対し、まず日本で経験を積むことを提唱しています。

卒業後に語学を勉強しながら日本で最低2~3年の社会経験をしっかり積み、25歳前後で海外に飛び出した方が長期的には間違いなくプラスになります(もしくは日本人によるOJT研修がしっかりしている日系企業での経験)。

目標と意識をしっかり持って望めば、後悔なき海外就職は必ず実現ででき、将来世界で活躍出来る場はますます拡がっていくでしょう。

‘07年1月の記事はこちらをご覧ください。

(インタビュー ’10年3月)

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